導入事例


取材年月:2014年12月
ジャパンディスプレイ石川工場では、2007年8月よりLightning Scopeを活用しています。
活用目的は、「瞬時電圧低下による生産の途絶を、低コストかつ効率的、効果的に防止すること」です。
Lightning Scopeを使って石川工場周辺の雷状況を把握し、特定の条件下で自家発電設備を稼働させることにより、瞬時電圧低下の危険から主要生産工程を保護しています。
石川工場での、「主要生産工程を瞬時電圧低下から保護するための対策」は、大きくは次のように変遷してきました。
時期 | 主要生産工程への給電経路 概要 | 概要 | 課題・評価 |
2007年 3月以前 |
自家発電が主、 通常電力は副 |
自家発電設備は24時間フルタイム稼働 | 操業の安定性は高いが、燃料価格が高騰した場合、コストが見合わない可能性 |
2007年 4月~7月 |
通常電力が主、 自家発電は副 |
平時は、電力会社の通常電力を使う。しかし落雷が頻発し瞬時電圧低下が発生しそうに【思われる】場合は、自家発電設備を稼働し、そちらから給電する(給電経路の切り替え)。 |
燃料コストの問題は解決するが、落雷状況を人的に判断しており人的負担が上がる。また判断根拠もやや薄弱 |
2007年 8月 ~ |
通常電力が主、 自家発電は副 |
基本的な考え方は以前と同じ。ただし落雷状況の把握にLightning Scopeを使う。 |
安定性とコストの両立が可能になった |
根本のところからご説明いたします。
液晶基板の生産の場合、雷が原因で瞬時電圧低下が起きて生産設備が誤作動あるいは停止すると、仕掛品の多くが不良品となります。液晶基板では、化学薬品を精密な比率で用いるなど「繊細な制御」が必要になるため、瞬時電圧低下の影響は甚大です。
この損害を防ぐため石川工場では、従来、主要生産工程への給電には主に自家発電設備を活用していました。この方式を取れば瞬時電圧低下が主要生産工程に影響を与えることは原則なくなります。
しかし2005年頃から燃料価格が高騰を始めたため、自家発電設備を24時間稼働させる方式は、次第に採算が見合わなくなってきました。
そこで2007年4月より、「主要生産工程の電力は、平時は通常電力でまかなう。ただし落雷による瞬時電圧低下が懸念される場合は、自家発電から給電する」という方式に切り替えることにしたのです。
当時は、電力会社や気象情報会社がホームページで無料公開していた雷情報を元に、落雷状況を判断していました。
しかし、これらのサービスは、情報の更新間隔が長く、精密な判断基準とするには不十分でした。
その頃は、石川工場周辺の気象状況に精通している担当者が、自分の経験とカンを元にして、情報の不足分をおぎなっていました。
ただしその担当者は、24時間、常に雷状況に気をくばっていなければいけません。休日や夜間でも携帯電話で雷情報を確認し、工場に給電切替の指示を出さねばなりませんでした。
このような人的負担が高い状態、また「その担当者でなければ判断できない」という属人性の高い状態は、どこかで改善しなければいけないと考えていました。
そんな折りフランクリン・ジャパンのLightning Scopeを使えば、高精度の雷情報の把握が可能になると知ったので、さっそく問い合わせました。
そして説明を聞いたところ、ジャパンディスプレイが雷情報対策システムに求める要件を良く満たしており、また実績も豊富で価格も手ごろであることから、導入を決めました。2007年7月のことです。
Lightning Scopeを選んだ理由は次の3点です。
1 リアルタイムの雷情報の把握が可能
2 広範囲の情報入手が可能
3 カスタマイズが可能
従来の無料情報では、雷情報の更新間隔が長く、実用性が不十分でしたが、Lightning Scopeでは、ほぼリアルタイムで雷情報を把握できます。
当工場周辺での雷状況を把握する場合、石川、富山、福井の北陸三県の情報だけでなく、京都北部、滋賀県、岐阜県など周囲の県の雷情報が必要になります。そ の意味では、従来の電力会社(北陸電力)の情報提供は北陸三県を中心としており情報が不十分でした。しかしLightning Scopeを使えば、電力管轄に縛られることなく、必要な情報をより広範囲に得ることができます。
Lightning Scopeは標準機能の他に、こちらの運用方針に合わせたカスタマイズも可能であるとのことでした。実際、導入後すぐに、「気象庁発表の気象警報・注意報 の表示について、工場周辺地域に限定せず、北陸三県にわたり広域的に表示する」というカスタマイズを依頼しました。
また東日本大震災後の2011年10月からは、「緊急地震速報」も受信できるようにしました。
自家発電設備の運転開始・停止の条件、そしてLightning Scopeによる各条件の認識方法については、次のとおりです。
【運転開始条件】
条件 | 条件発生の認識方法 |
工場を中心とした半径100㎞内で落雷が発生した場合 (※図1:黄線の同心円が半径100㎞の範囲) |
Lightning Scopeの画面および音声警報(チャイム音) |
警戒区域内(※図3)で、気象庁から雷注意報が発表された場合(※図2) | 同上 |
【運転停止条件】
条件 | 条件発生の認識方法 |
工場を中心とした半径100㎞内で雷雲が消滅したとき | Lightning Scopeの画面を目視 |
警戒区域内で、気象庁から発表された雷注意報が解除された場合 | Lightning Scope画面および音声警報(チャイム音) |
Lightning Scopeを導入した効果は以下の3点です。
Lightning Scope の導入効果
1 誰でも的確に判断できるようになった(属人性の低減)
2 冬季雷の予測ができるようになった
3 自家発電コストの低減に繋がった
従来は、「当地の気象に精通した熟練担当者が、少ない情報を、自身の経験とカンで補いながら、自家発電設備を稼働するかしないかを判断する」という属人的 な状況でしたが、Lightning Scopeを使うことにより「十分な情報を元に、ほぼ誰でも的確な判断が下せる」という体制に改善できました。
北陸地方では冬に雷が鳴ることが多いのですが、冬の雷は夏の雷に比べ予測が困難です。従来は、それこそ熟練担当者の経験とカンに頼るほかありませんでし た。しかしLightning Scopeを使えば、雷雲の流れを広範囲に把握することが可能なので、通常の担当者でも冬季雷の危険を察知することが可能になりました。
担当者が人的判断していた頃は、自家発電設備は、「たぶんこの時刻に雷が来る」と予測していた時刻の3時間前に稼働していました。しかし、 Lightning Scope導入後は、自家発電設備の稼働は、最短で「予測される雷時刻の20分前」にまで短縮することが可能になりました。 予測精度の向上により、自家発電設備の稼働時間を大幅に短縮し、燃料コストの削減を実現しました。
ここ石川工場のように、通常電力と自家発電を頻繁に切り替える操業環境の場合、その切替のタイミングの判断が、自家発電設備の稼働時間の長短、すなわちコストに直接、影響します。
弊社と同様の環境にある工場では、雷情報の把握を仕組み化して効率的な給電体制を実現することにより、コスト低減と安全性の向上を両立させられる可能性があると考えます。一度、Lightning Scopeを検討してみても良いかもしれません。
ジャパンディスプレイ石川工場では、今後とも良い製品を安定的に生産できるよう、工場の操業体制を引き続き改善していく所存です。フランクリン・ジャパンには、当工場の取り組みを、高品質の雷情報の提供を通じて後方支援いただくことを希望します。引き続き、よろしくお願いします。
ジャパンディスプレイ石川工場様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
取材制作: カスタマワイズ