取材年月:2014年03月
富士フイルム神奈川工場足柄サイトでは、雷発生をリアルタイムに把握するというシンプルな使い方をしています。Lightning Scopeを導入してから15年になりますが、この使い方に一貫して変化はありません。
平常時、当工場では系統電力(電力会社から供給される電力)と自家発電の2系統を系統連携(混ぜ合わせ)して、一般負荷と重要負荷に供給しております。しかし、万が一落雷によって系統電力の送電設備に障害が発生すると、供給される電圧が一時的に下がる(瞬時電圧低下が起こる)ため、重要負荷にも甚大な影響が発生します。
そこで、当工場への系統電力の送電に影響する地域での雷発生をリアルタイムに把握して、瞬低が発生する可能性が懸念される場合には、重要負荷への電力供給を自家発電からのみの供給となるように系統電力を切り離します。
手順は次のとおりです。
雷発生時の系統電力の切り離し手順
1 Lightning Scopeをインストールしているパソコンは操作室にあり、24時間稼働しています。東京ガスエンジニアリングソリューションズのスタッフも2交代で常時監視しています。
2 半径80キロ以内で雷が発生した場合、Lightning Scopeから警報音が鳴ります。警報音は操作室のみならず、隣の執務室でも聞き取ることができるようになっています。
3 当工場に影響がある送電設備への落雷の危険性があると判断された場合、重要負荷への電力供給を系統電力から切り離します。
4 落雷が危険域から消えてから1時間ほど経過したら元の系統連携に戻します。
系統電力を切り離すか否かは、Lightning Scopeの警報音を契機に、総合的に状況判断して決めています。主な判断材料は次の3点です。
関東の天気は、一般に西から東へ移動していく傾向があります。ということは、神奈川県足柄から東、すなわち東京や千葉方面で雷が発生したとしても、その後、雷雲が神奈川方面に来る可能性は低いと考えられます。
一方、足柄から見て西方面、つまり富士山の周辺で雷が発生した場合は「要注意」です。
また、足柄にほど近い丹沢地域で、いきなり雷が発生した場合は、「緊急事態」と見なし、多くの場合、直ちに系統電力を切り離します。
自家発電で供給できる能力と重要負荷の要求電力量によって、どの重要負荷まで系統電力と切り離すか、個別の重要負荷の今後の電力使用予測によって判断しています。
雷は夏に多く発生します。最近はゲリラ豪雨も頻発しており、それに伴い、雷の発生回数も増えています。そのため、夏場の雷に対しては特に警戒して系統電力との切り離しを判断します。6月から9月にかけては、月間の自家発電切り替え回数が20回に達することも珍しくありません。
また、雷とは別の話になりますが、冬も、降雪が多い年は、要警戒の季節となります。
送電線に積もった雪が落ちるとき、送電線が大きくたわみ、その反動で電圧低下が発生することがあるからです。
自家発電の能力には限界があり、全負荷を賄うことはできません。また、自家発電系統への切り替えに伴い復水発電量が増加することで、蒸気の放熱分が大きくなり、エネルギーロスに繋がるケースもあります。そのため、重要負荷の稼働状況を予測して、自家発電のみで供給する負荷と系統電力から供給する負荷を判断しなくてはなりません。
通常時は系統連携を行っているのでこのような苦労はないのですが、雷発生時は瞬停リスクから製造ラインを守り、かつ省エネルギーな運用を意識した判断が必要となります。
重要なのは系統電力と自家発電のバランスです。工場内の電力・蒸気需要を考慮し、系統電力と自家発電のバランスが最適となるよう運用しています。
雷による電圧低下を事前にキャッチするため、「雷検知器」を設置していました。
半径20~30キロ圏内に雷の発生または落雷を検知して、アラームを発します。
ところが、雷検知器は場所も方角もわかりません。雷が発生したというアラームが発せられるだけです。それから天気図を確認したり、空模様を目視で確認したりして、対策を打っていました。
雷検知器は誤検知が多いのも問題でした。特に雨が激しいと誤検知が多くなります。
アラームが発生しているのに、まったく雷の発生が確認できないことがしばしばありました。
不正確な情報から何度も電源を切り替えると、手間もコストもかかります。
このような課題を抱えていたころに見つけたのがLightning Scopeでした。他に似たようなサービスはありませんでしたので、迷わず採用しました。
Lightning Scopeを3つの点で評価しています。
2 Lightning Scopeはリアルタイムな発生状況はもちろん、数時間にわたる雷の個数も視覚的に確認できます。雷のコースや移動速度を把握して、系統電力の切り離しの判断に利用できます。400日分のログも蓄積されており、昨年の雷発生状況を画面表示して、判断材料とすることもできます。
3 雷に限らずアメダスによる降雨情報や気温などがワンモニターから確認できるのが便利です。
気象注意報・警報も表示されます。冬場は積雪の状況も確認できます。
地図や地域を選択して雷情報を確認できるようですが、利用していません。機能性と操作性において、Lightning Scopeの方が優れていると思います。
機能に関しては、最新の情報に自動的に更新され画面表示されます。電力会社からの情報は検索する手間が必要になります。
Lightning Scopeは有料だけあって、ユーザーインターフェイスが優れ使いやすいと思います。定期的にシステムがバージョンアップされますし、こちらの要求に応じて、フランクリン・ジャパンがカスタマイズにも対応してくれます。
この機能性と操作性により、無料情報に乗り換えようと考えたことはありません。
すでに何度かバージョンアップしてもらっています。
今回もバージョンアップを機に、危険域の変更をお願いしています。
現在、危険域を半径80キロに設定しており、80キロ以内で雷が発生すると警報が鳴ります。
しかし、半径80キロを危険域と設定した場合でも、系統電力の切り離しを判断する上で余分なエリアが多々あります。そこで、一律に80キロではなく、距離のみならず系統電力の送電設備の位置も想定し危険域が最小となるよう要望を出しています。
加えて、危険域に雷が発生した場合、自動的に地図画面がポップアップする機能があると便利になると伝えてあります。
私どものように、雷等による瞬時電圧低下が製造ラインに与える影響が大きく、瞬停対策に高度なオペレーションと判断が求められる場合では、Lightning Scopeは欠かせないツールです。
無料の情報サービスでは得られない機能も提供されています。自家発電系統の分離による瞬停対策を考える際には、ご検討することをお勧めします。
東京ガスエンジニアリングソリューションズ様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
取材制作: カスタマワイズ