取材年月:2014年02月
名古屋誘導推進システム製作所では、2008年に、Lightning Scopeを導入し、雷警報システムを構築しました。これにより、雷情報の収集、工場内への注意喚起、情報伝達などを行っています。
Lightning Scopeを導入している意義は、次の3点です。
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「雷が発生(接近)」しているときは、「送電設備への落雷により、瞬時電圧低下が発生すること」を警戒する必要があります。Lightning Scopeにより、雷情報を素早く知り、各生産現場で適切な対策を行えば、瞬時電圧低下による生産の不適合や途絶を、未然に防ぐことができます。
名古屋誘導推進システム製作所では、航空機のエンジンのような大型製品を受注ベースで生産しています。これら大型製品の生産においては、「いったん加工を始めたら、数十分の間は継続しなければいけない(途中でやめられない)」という工程が存在します。その工程が瞬時電圧低下の影響で途絶されると、最悪の場合、数百万円単位の原材料損失が発生します。そうした事態を起こさないよう、雷情報を先取り収集し、「雷が近づいている場合は、長時間を要する加工を始めないようにする」などの対策を行います。
瞬時電圧低下により生産設備の乱調動作が発生した場合、従業員の安全確保に支障が生じる可能性があります。そうした事態を防ぐため、雷情報を的確に収集し、現場責任者に伝え、職場の安全を確保できるよう努めます。
参考情報:瞬時電圧低下とは?
送電線や変電所など電力関連の設備(あるいはその周辺)に雷が落ちた際に、それが原因で、送電される電気の電圧が、一瞬、コンマ何秒の間、大幅に低下することがあります。これを「瞬時電圧低下(略称、「瞬低」)」といいます。
瞬時電圧低下が起きても、一般家庭の電気機器にはほとんど影響はありません。しかし、工場など繊細な加工を行う工作機械の動作には、大きな悪影響があります。
瞬時電圧低下は、工場を安定操業する上で、大敵であるといえます。
この雷警報システムでは、「正しい雷情報を集めて」、「それを製造現場に自動的に伝えること」を行っています。システムは、Lightning Scopeに様々なカスタマイズ(機能追加)を施して、構築しました。
まず「落雷の警戒範囲」から説明します。Lightning Scopeを使って、次の図の中の、黄枠内の雷情報を収集しています。黄枠内は注意区域。赤枠内は警戒区域です。
Lightning Scopeの初期設定では、黄枠は半径50キロの円でした。しかし、それでは、「遠くにあるけれど重要な送電設備」をカバーできません。フランクリン・ジャパンに依頼し、黄枠の範囲を、送電設備を確実に囲むように、変更してもらいました。
製造現場には、「注意報」「警報」「注意報/警報の解除」という三種類の情報を伝えています。 情報の伝達手段は、1).「パトランプ点灯と場内アナウンス」、2).「電子メール送信」、3).「落雷状況のキャプチャ画像の常時更新」の3種類です。
製造現場には、雷の注意報、警報(およびそれらの解除)を、「パトランプ点灯と、場内アナウンス」という形で伝達しています。概要は次のとおりです。
1 Lightning Scopeの雷情報は、工場内のパラボラアンテナで収集(受信)しています。黄枠内での落雷は「注意報」として扱います。赤枠内への落雷は、注意報より切迫度の高い「警報」という扱いにします。
2 Lightning Scopeの雷情報による「注意報」「警報」の信号がパトランプに送られます。
3 パトランプは工場内の各作業エリア、合計28箇所の、「作業員からよく見える場所」に据え付けてあります。落雷がない通常の状態では、消灯しています。
4 Lightning Scopeから雷の「注意報」が送られてくると、パトランプの黄色灯が点灯します。同時に、「雷雲が発生しました。注意願います」というアナウンスも流れます。
5 この「注意報(黄信号)」が発生した場合、各現場の責任者は、「いま雷が近づきつつある。しばらく後に瞬時電圧低下が発生する可能性がある」という認識を持ち、それに基づいて現場に作業指示を出します。具体的には、「いったん開始したら数十分間は停止できない、長時間かかる加工」や「高価な原材料に対する加工」などを開始しないようにして、次に来るかもしれない「警報」に備えます。
6 「注意報(黄信号)」が発生した後でも、ここで雷が止むか、あるいは雷雲が黄枠の外に去っていった場合は、危険は去ったと見なし、1時間後に注意報を解除します。
7 そのまま雷が止まず、雷雲が近づいてきて、赤枠(警戒区域内)の中で落雷が発生した場合は、Lightning Scopeから「警報」の信号が送信され、パトランプの赤色灯が点灯します。同時に、「落雷が発生しました。重要設備は停止願います」というアナウンスが流れます。
8 「警報(赤信号)」が発生した場合、作業責任者は、アナウンスの指示に従い、重要な設備の運転を、手順に従い停止します。
9 黄枠内(含む赤枠内)での最後の落雷から、1時間が経過すると、「警報」、「注意報」が解除され、パトランプは一定時間「解除」を示す緑色灯が点灯した後、消灯します。作業員は、平常の作業体制に戻ります。
「注意報」「警報」「注意報/警報の解除」という3種類の情報を、電子メールでも送信します。
送信タイミングは、パトランプの点灯タイミングと同じです。送信宛先は、「各作業現場の責任者」をはじめとする、工場内の管理職のパソコンです。
電子メール送信を行っている目的は、「管理職がどんな場所にいても、雷情報を確実に伝えるため」です。管理職は常にパトランプが見える作業現場にいるとは限らず、事務所でデスクワークをしていることもあります。そんな場合でも確実に雷注意報/警報を届けるには、電子メールの活用が適切だと考えました。
管理職が、パトランプや電子メールを通じて、雷注意報(警報)を認識した後、次に知りたいことは、「雷が、実際に、どこでどの程度、発生しているのか」という詳細情報です。 この必要に応えるために、「Lightning Scope」の雷情報の表示画面を、プログラムによりキャプチャし、その画像を管理職や現場責任者が閲覧できるイントラネット用サーバに保存する」という仕組みを構築しました。画像は1分ごとに保存されます。
管理職は、雷注意報(警報)を認識した後、このフォルダの画像を見ることにより、雷の発生場所、発生度合いなど詳細情報を認識し、その後の現場での作業指示に役立てます。
今回、フランクリン・ジャパンに依頼した、カスタマイズ(機能追加)の項目は次のとおりです。
Lightning Scopeを導入する前は、雷(および瞬時電圧低下)に対しては、「各製造現場が、天気予報や目視判断などの情報を元に、自主判断する」という方式で対処していました。
しかし、その方法には次のような課題がありました。
台風や大雨ならば、その発生と接近は、前日あるいは数時間前から、天気予報や目視確認を通じて、ある程度予測できます。しかし、雷は、雨が降る前にいきなり落ちることがあるので、予測が困難です。それでも、これを予測しようとするならば、『遠方での雷雲の発生と、その接近』を、事前に察知する必要がありますが、工場のまわりの空模様を目で見ているだけでは、それは分かりません。
雷被害の特徴は、「近辺ではなく遠方での落雷であっても、工場への『直接的な被害』につながり得る」ことです(遠方での落雷が、瞬時電圧低下を引き起こすことがあるから)。したがって、雷への先取り対策を行うには、近辺のみならず遠方の雷情報も収集する必要がありますが、目視確認では、それは不可能です。
「製造現場の各責任者が自主判断する」という従来の方式は、「属人性が高い(最終的には『人だのみ』)」であり、安定性に欠けるという問題がありました。工場の安定操業を確保するための雷対策には、属人性を伴わない、いわゆる「しくみ化」された施策が望ましいと思われました。
従来の属人的な方法では、「誰か」が雷の危険を察知したとしても、それを全工場に、システマティックに周知させる「しくみ」がありませんでした。
雷情報の現場への通知は、「気をつけるように」という「注意報」から、「ただちに設備を止めよ」という「警報」へと、段階的に発令する必要があります。しかし、従来の方法では、このような「段階的な情報通知」を行うことは非常に手間がかかりました。
以上の分析に基づき、会社として、「現状の属人的な雷対策を続けていては、工場の安定操業を確保できない」、「高価な原材料の損失によるコスト増、納期遅延を引き起こす可能性がある」、「近年のゲリラ豪雨の増加など不安定な気象を考えると、その危険性は顕在化している」、「人に依存しない、本格的な雷警報システムを構築するべきである」という結論に達しました。
この決定を受けて、総務部門では、雷情報に関する各種製品、サービスを調査しました。
その結果、有料のサービスとしては、フランクリン・ジャパンのLightning Scopeが、私たちの探した範囲では、唯一のものだったので、これを候補としました。
一方、「電力会社がホームページで無料提供している雷情報」も候補に挙がりました(※)。
Lightning Scopeと、無料雷情報を比較したときの基準(目のつけどころ)は次の通りです。
提供される雷情報の精度が十分であること、すなわち落雷発生の「時刻と場所」が高精度で分かることを求めました。
雷情報を現場作業員に正確かつ自動的に知らせるための仕組みを、カスタマイズにより私たちが望むような形で実現できることを求めました。
高精度の雷情報を継続的に提供し続ける企業姿勢、事業基盤があることを求めました。
基準1~3を満たした上で、価格が合理的であることを求めました。
以上4つの基準で比較検討した上で、Lightning Scopeの方が相対的に優れていると判断し、これを導入することを決めました。
2008年6月のことです。
Lightning Scopeが、電力会社の無料情報に比べて良いと思われた点は、 1.「情報の精度や提供タイミングが、ある程度『保証』されていること」と、2.「カスタマイズが可能なこと」の二つです。
第一に、「情報の精度や提供タイミングが、ある程度『保証』されていること」ですが、まず「情報の精度」については、「電力会社が自社の送電網を守るために観測、提供している情報」と、「雷情報の専門会社、フランクリン・ジャパンが観測、提供している情報」とを比べた場合、元情報の精度、品質においては、両者は拮抗しているだろうと予測しました。
しかし、いくら元の情報の精度が高くても、「ホームページで無料で提供されている情報」が、それと同程度に高精度かどうかは不明であり、「保証」はありません。また落雷後、直ちに情報提供されるかどうかという、「情報のリアルタイム性」についても保証はありません。そもそも、電力会社の雷情報は、あくまで「厚意により無料提供されている参考情報」ですから、そこに「保証」を求めることはできません。
一方、Lightning Scopeでは、まず情報の精度については、「位置についてはプラスマイナス500メートル」、「時刻については、雷発生の少なくとも15秒後には情報送信」というように、目安が提示されています。またLightning Scopeは、「有料の情報提供サービス」なので、こちらとしても「ある程度の保証、確実性」を求めることが可能になります(※)。
第二に、「カスタマイズが可能なこと」についてですが、電力会社の無料情報の場合、「雷情報を工場内に、すみやかに、また自動的に伝達することが難しい」という問題がありました。そもそも、電力会社の雷情報を知るには、誰かがホームページを「定期的に見に行く必要」があります。そして、雷情報を知ったとしても、それを工場内に自動的に知らせる仕組みを構築するのも困難です。
一方、Lightning Scopeは、パトランプの点灯、音声アナウンス、電子メール送信など、柔軟なカスタマイズが可能でした。
以上、二点に基づき、Lightning Scopeの方が良いと判断した次第です。
所期の目的、すなわち「雷情報を自動察知して、工場内に直ちに知らせるための『しくみ』を構築すること」については、十分に達成できました。
特に効果を実感しているのは、「ゲリラ豪雨」など突発豪雨(及び、それに伴う落雷)の事前認知についてです。そうした突発豪雨(落雷)は、以前のような「空模様を人が眺めて判断する」という方法では、危険度を正確に判断することが困難でした。しかし、現在は、システムを使うことにより、確実に事前認知、判断することが可能です。
Lightning Scopeでは、雷の警戒範囲(赤枠、黄枠)をカスタマイズして調整できます。しかし、この警戒範囲を、「どの程度広く取るか(あるいは狭くするか)」については、大変、悩ましい話になることを、これから対策をなさる方にお伝えしたく思います。
まず「安全を優先して、警戒範囲を広くとる」という方針を取った場合、範囲を広くした分、注意報や警報が頻繁に発生することになります。
注意報、警報が発生すれば、その度に、警戒態勢をとったり、機械を止めたりしなければいけません。しかし、それがあまりに繰り返すようですと、オオカミ少年の寓話ではありませんが、次第に、作業員の間に「また警報か。でも、今度もどうせ空振りなんだろう…」というような、「たるみ、倦怠感」が生じる恐れがあります。
また、雷警報システムは、そもそも生産の途絶を防ぐために導入するわけですが、あまりに警報が頻発して、その度に機械を止めることになると、それはそれで生産のアイドルが増えることになり、逆効果です。
しかし、そうした悪影響を恐れるあまり、警戒範囲を狭くしすぎると、今度は、本当に重要な落雷、瞬時電圧低下を引き起こしかねない落雷を見逃してしまうかもしれません。それでは、雷警報システムを導入した意味がありません。
落雷に対する警戒範囲については、フランクリン・ジャパンに、他ユーザーでの取組み情報を教えていただくなどしながら、適正範囲を決めることが大切です。
Lightning Scopeの導入・活用により、私たちの工場の雷対策体制は大幅に強化されました。フランクリン・ジャパンには、優れた技術とサービスを通じ、工場の安定操業を後方支援していただくことを期待します。今後ともよろしくお願いします。
三菱重工様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
取材制作: カスタマワイズ