2020.12.18

フランクリンの生涯~前編:実業家編~

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ベンジャミン・フランクリンは、アメリカの100ドル紙幣にも印刷されている偉人です。
彼が実業家として成功するまでの半生はどのようなものだったのでしょうか。

印刷会社の社長として成功を収める

ベンジャミン・フランクリンは、雷の科学実験を行ったり避雷針を発明したりと、雷の研究において大きな功績を残しました。前回までのコラムでは、これらの科学的な功績について触れてきましたが、最後にフランクリンの生涯を2回にわたってご紹介し、ベンジャミン・フランクリンに関する特集を締めくくりたいと思います。

フランクリンは科学者だけではなく、実業家でもあり、「アメリカ建国の父」とも呼ばれる偉大な政治家でもありました。今回の記事では、多くの顔を併せ持つフランクリンの生涯のなかでも、まずは実業家として成功し、科学者や発明家として数々の功績を残した前半生について紹介します。

フランクリンは、1706年にアメリカで生まれました。両親はろうそくや石鹸を作る職人で、17人兄弟の15番めの子どもでした。家庭は貧しかったため、学校にもまともに通うことができませんでした。そこで、10歳のときに学校をやめ、家業の手伝いをします。その後、12歳からは印刷会社で働き始め、仕事の合間に本を貪るように読み、考えついたことを短い論文にまとめていました。
17歳になり、フィラデルフィアに出て印刷工として働き始めると、その働きぶりがフィラデルフィアの知事に評価されます。そして1724~1726年の2年間、ロンドンにも留学しました。

帰国後、働いて貯めたお金で印刷会社を始めます。
1729年には経営不振だった『ペンシルヴァニア・ガゼット』という新聞を買収し、アメリカ初のタブロイド紙を発行。この新聞のおかげで、会社の利益は大いに上がりました。

そして1732年には、『貧しいリチャードの暦』という暦を出版し、これが毎年1万部近く売れ、しかも25年間も売れ続けたロングセラーになりました。この暦は通常の暦に加えて、読者の興味を引く記事とフランクリンがほぼ自作した金言が入っていたのが特徴です。フランクリンは自分を道徳的に完成するために、13の徳(節制、沈黙、規律、決断、節約、勤勉、誠実、正義、中庸、清潔、平静、純潔)を考えて実践していたのですが、この13の徳のなかで、おもに倹約と勤勉を説く金言が、『貧しいリチャードの暦』に掲載されていたのです。このような金言が当時の人々を夢中にさせたのです。

しかし、フランクリンはお金儲けをするだけでなく、社会のために貢献することを常に考えていました。若い知識人が時事問題を討論できるクラブを創設し、アメリカ初の図書館を開設したり、フィラデルフィアでは初めて消防隊を組織化したりしたのです。

1748年、42歳になったフランクリンは、印刷業によって十分な富を得られたため、事業から手を引きます。そして、今後は公職につきながら科学の研究にも打ち込むのです。

 

先進的過ぎたさまざまな発見や発明

フランクリンの科学者としての功績としてもっとも有名なものは、以前の記事で述べたように、雷の正体が電気だと証明したことです。

しかし、彼の研究は雷だけにとどまりません。北大西洋の航海する際に、メキシコ湾を時計回りに北アメリカの東海岸に沿って上昇する海流を利用することで、ヨーロッパと当時の植民地であったアメリカ間の航海を飛躍的に効率化し、危険を軽減できることに気づき、航海図に書き入れたこともフランクリンのよく知られる功績です。その際、フランクリンが名付けた「メキシコ湾流」の名は今日まで残っています。


 ▲フランクリンによるメキシコ湾流 海流図

ほか、荒天に注意するために天気予報が必要だと主張したり、燃料を節約するため日光節約時間(サマータイム)を奨励したりもしました。
ただ、どの言説も当時の人々にとってはあまりに先進的過ぎて、その主張が受け入れられたのはそれから約150年後のことでした。
雷や避雷針についても、フランクリンの主張したことが認められるまでに時間がかかりましたよね。フランクリンの発想は当時の人々の常識を超えた先進性のあるものだったことがよくわかります。

なお、フランクリンの発明は、避雷針だけではなく、老眼鏡と近視用メガネの両方の機能を兼ね備えた遠近両用メガネや、「フランクリン・ストーブ」という暖房効率を改善した室内に備え付ける鉄製のストーブなどもあります。
これらの発明も、人々の暮らしがもっと便利になるようにという思いが根底にありました。
実際に、これだけ多くの発明をしたにもかかわらず、フランクリンは発明の特許を取らなかったといいます。社会のために貢献することを常に考えていたフランクリンらしい行動だといえますね。

 

【フランクリンの十三徳】

ベンジャミン・フランクリンは、1728年頃、自分を道徳的に完成するために以下のような13の徳を考えました。
毎週、一つの徳目に集中して一週間実行し、年に4回このサイクルを繰り返しました。


1.節制:飽くほど食うなかれ。酔うまで飲むなかれ。
2.沈黙:自他に益なきことを語るなかれ。駄弁を弄するなかれ。
3.規律:物は全て所を定めて置くべし。仕事は全て時を定めてなすべし。
4.決断:なすべきことをなさんと決心すべし。決心したることは必ず実行すべし。
5.節約:自他に益なきことに金銭を費やすなかれ。すなわち、浪費するなかれ。
6.勤勉:時間を空費するなかれ。常に何か益あることに従うべし。無用の行いはすべて断つべし。
7.誠実:詐りを用いて人を害するなかれ。心事は無邪気に公正に保つべし。口に出ですこともまた然るべし。
8.正義:他人の利益を傷つけ、あるいは与うべきを与えずして人に損害を及ぼすな。
9.中庸:極端を避くべし。たとえ不法を受け、憤りに値しても激怒を慎むべし。
10.清潔:身体、衣服、住居に不潔を黙認すべからず。
11.平静:小事、日常茶飯事、また避け難き出来事に平静を失うなかれ。
12.純潔:性交はもっぱら健康ないし子孫のためにのみ行ない、これに耽りて頭脳を鈍らせ、身体を弱め、または自他の平安ないし、信用を傷つけるがごときこと、あるべからず。
13.謙譲:イエスおよびソクラテスに見習うべし。

 

今井明子[気象予報士/サイエンスライター]
Twitter(@imaia78)

 

参考文献:
「ベンジャミン・フランクリン、アメリカ人になる」ゴードン・S・ウッド著、池田年穂・金井光太朗・肥後本芳男訳 慶応義塾大学出版会
ベンジャミン・フランクリン―アメリカを発明した男―」佐藤義隆 岐阜女子大学紀要
湾流とは何ですか? – 2020 | 地球 (wordssidekick.com)
「フランクリン」板倉聖宣 仮説社やまねこ文庫

 

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