2022.01.10

雷のエネルギー

その他の話題

ひとたび落雷すると、建物が壊れたり、工場などの設備機器が故障したりします。
雷にはいったいどのくらいのエネルギーがあるのでしょうか。
そのエネルギーは活用できないものでしょうか。

雷の電気エネルギー量は、どのくらい?

雷は電気です。落雷は、電荷を帯びた雷雲と地面との間で放電することで起こります。(参考:雷のメカニズム)本来空気は電気を通しにくい絶縁体なのですが、落雷のときには絶縁破壊という、空気の絶縁性を失う現象が起こります。それはなぜかというと、雷の電圧があまりにも強いからです。
それほどまでに強い雷のそのエネルギーはどのくらいのものなのでしょうか。

まず、1回の落雷による電流値の平均は30kA、電圧は1億Vです。そして雷の持続時間は、夏で平均100μs(μsはマイクロ秒と読み、1μs =100万分の1秒となる)です。
となると、雷のエネルギー量は1億V×30kA×100μs=3億Jです。
これをkWh(電力量。W×時間)に換算すると、1J=1Ws(W×秒)であり、1時間は3600秒なので、3億J÷3600s=約83kWhとなります。

ここで、一般的なサイズの一軒家では、1ヶ月の消費電力が350kWh程度です。
となると、1回の落雷のエネルギーは、約10日分の消費電力となります。

なお、フランクリン・ジャパンが運用するJLDN(Japanese Lightning Detection Network、全国雷観測ネットワーク)では、夏の平均電流値は約12kAです。同じ計算をすると、雷の平均電力量は約33kWhとなり、一般家庭の約3日分の電力量となります。

結論としては、落雷1回のエネルギーは一般家庭の3~10日程度の電気に相当するといえます。

 

雷のエネルギー活用することはできる?

これだけのエネルギー量なら、落雷のエネルギーを活用できないかと考えたくなりますよね。しかし残念ながら、それは現実的とはいえません。

なぜかというと、まずは雷のエネルギーの大半が稲妻や雷鳴、そして熱として放出されてしまうため、効率よく電気として活用するのが難しいからです。
さらに、雷はどこに落ちるかはわかりませんし、膨大なエネルギーを受けとめられるだけの設備を作ることも難しいです。どこに落ちてもいいように、あらゆるところに雷のエネルギーをキャッチできるだけの頑丈な施設を建設するのは、建設費用を考えると現実的とはいえないのです。

では、雷の落ちやすい高い建物や塔だけを頑丈にし、そこに落ちた電気を皆が使えばいいと思うのかもしれませんが、現状では発電した電気をためる設備(蓄電設備)も開発されていないのです。

とはいえ、蓄電設備の開発のための研究は今、盛んに行われています。というのも、現在は太陽光や風力などの自然由来の再生可能エネルギーへの転換が求められているものの、天気に左右されて発電量が安定しないという欠点があるため、蓄電設備が強く求められているからです。蓄電設備が実用化されれば、将来は、雷のエネルギーをうまく活用できるようになるかもしれません。

 

今井明子[気象予報士/サイエンスライター]
Twitter(@imaia78)

 

参考文献:
「雷をひもとけば-神話から最新の避雷対策まで」新藤 孝敏 著 電気学会
「雷の疑問56」鴨川 仁・ 吉田 智・ 森本健志 共著 成山堂出版
「もっとすごすぎる天気の図鑑」荒木健太郎 KADOKAWA
JLPA「雷について」(https://www.jlpa.jp/measure/about_thunder.html
Gakkenキッズネット「かみなりのひみつ」(https://kids.gakken.co.jp/himitsu/library165/