2021.03.19

雷の語源

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身近な気象現象としての「雷」。
いったいどのようにしてこのような名前になり、このような漢字が使われるようになったのでしょうか。

なぜ「かみなり」というのか

突然空が真っ暗になり、ピカッと稲妻が走り、ゴロゴロと雷鳴が轟く…。雷が落ちれば建物や人体、機械などに大きな被害を及ぼしますし、時には火災が発生することも。雷が落ちたあとの被害は人の想像を超えるような衝撃的なものも多く、自然の威力に恐れおののきますよね。

「かみなり」の語源は、「神鳴り」からきています。つまり、「神様の鳴らす音」だということです。確かに、日本画の「風神雷神図」を見ると、雷神は太鼓を鳴らしている鬼として描かれています。あれだけ空気がびりびりと震えるほどの巨大な音が鳴れば、確かに神様のものだと思いたくなるものです。

 

雷光を「いなづま」と呼ぶわけ

ところで、雷には音のほかに光も特徴的です。ピカッと光るあの光は、「稲妻」と呼ばれています。なぜ、「稲妻」なのでしょうか。

これについては、「稲の夫」が語源です。昔は「夫」のことも「つま」と読んだのです。ちょうど稲が実る時期に雷が多いことから、古代では雷光が稲を実らせる霊力があると信じられてきました。現代では「つま」と読む漢字は「妻」なので、「稲妻」と表記されるようになったのです。

 

なぜ「雨」に「田」と書くのか

それでは、最後に雷の漢字の由来についても説明しましょう。雷という漢字は、雨冠に「田」の文字が入っています。稲妻という言葉もあるので、雷が稲作に恵みをもたらすからこのような字を書くのではないかと思うことでしょう。ところが、どうやらこの漢字の由来はそうではないようなのです。

今、日本で使われている漢字は、もともと中国で使われていた漢字を簡略化したものがほとんどです。「雷」という漢字も、もとはといえば雨冠の下に田が3つの「畾」という形で書かれていました。さらにこの3つの「田」は、もとはというと島津家の家紋のような、十の字を〇で囲んだような形だったようです。

では、〇で囲まれた十の字というのは何を表したものだったのでしょうか。これには諸説あります。雷光を示しているという説もありますし、台車の車輪だという説もあります。台車の車輪は転がるとゴロゴロと鳴るので、雷鳴を示しているということですね。とりあえず、「田」は田んぼの意味ではなく、雷光か雷鳴のことを示していることは確かです。

とにかく、現代であっても、雷のあの光と音は、神の仕業だと思いたくなるほどの迫力です。雷の語源を知ると、昔の人の自然への恐れがひしひしと伝わってきます。

 

今井明子[気象予報士/サイエンスライター]
Twitter(@imaia78)

 

参考文献:
「雷文化論」妹尾 堅一郎著 慶應義塾大学出版会
http://gogen-allguide.com/i/inazuma.html